古民家を残す社会的意義

地球温暖化が世界規模の深刻問題となっている現在、家造りの観点からもCO2の削減を促すべく、2008年、年頭に国が200年住宅ビジョンを掲げ日本の住宅政策は大きく転換しました。「いいものをつくってきちんと手入れして長く大切に使う」という考え方への移行は、建て替えの際のCO2を減らすこともでき生活する中でのCO2削減にもなります。地球温暖化防止につながる考え方であると思われます。確かに、世界の住まいの平均寿命を見ると日本の30年は、55年のアメリカ・77年のイギリスに比べ、極端に短命であると思われます。 さらに、建て替える度に貴重な資源を消費し、大量の廃棄物を産み出しています。そういう観点で建物を見直すとことさら建物の耐久性を決定づける構造部分の性能について重要視する必要があります。「いいものをつくってきちんと手入れして長く大切に使う」とういう考え方においては、住宅に使われている構造材(木材)の耐久性は、その大きな要素であると考えられます。本来、古民家に使用される木材はその成長の段階からその土地の風土の中で与えられる自然環境からの試練をかいくぐってきております。屋久島の縄文杉は樹齢7000年以上と言われています。また、世界最古の木造建築「法隆寺」の1300年以上たったヒノキの柱にカンナがけすると、真新しい檜と同じ爽やかな香りがしてくると言います。この木材の持つ、時間の経過とともにどんどん熟成し、その強度を増してくるという特性に着目すると、古民家の構造体こそが超長期に渡り使用できる部材であり、それを上手く活用する方法と仕組みが必要です。

 

現在、日本では木材が円熟する前の段階で捨てられています。民家・町家の多くは解体され、その多くの価値ある木材(古材)も廃棄されています。戦前では、新築する時、家をリフォームする時、「古い木材を再利用する。」ということはごく当たり前でリユースの文化は実はあったのです。そこには「モノを大切にする」「もったいない」という日本人ならではの習慣がありました。古材を利用できる市場があり、古い民家を解体したり、改修したりすると、何度も使われた形跡のある古材が梁や桁に再利用されています。時代は高度成長期時代に入り「モノを大切に」の時代から「捨てる」時代に。使うのに手間のかからない外材に押されたこともあり、解体された民家や町家から出る価値ある古材は、その市場から姿を消し、チップにされて燃やされたり、埋められたりするようになってしまいました。温暖化対策をはじめ、環境問題を地球規模で大切に考えるようになってきた現在こそ、日本人の「もったいない」の精神を生かして「いいものをつくってきちんと手入れして長く大切に使う」というストック社会の考え方を普及させていく必要が高まっています。日本という風土の中では、「壊したくない」「次世代に住みつなげていきたい」という数値では測れないユーザーの気持ちを活かすことも長寿命の住まい存続には重要です。そして潜在的に持つ古民家の癒し、雰囲気的な暖かさ、美しさの要素が、さらなる先人の知恵を学び活かすことにより、住む者にとって心地よく活かされることが必要不可欠であると考えています。

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